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ジーン・ウェブスターの父親による『ハックルベリー・フィンの冒険』の出版 The Publication of _Adventures of Huckleberry Finn_ by Charles L. Webster [Marginalia 余白に]

ジーン・ウェブスターが生まれた1876年にマーク・トウェイン Mark Twain [Samuel Clemens, 1835-1910] の『トム・ソーヤーの冒険 The Adventures of Tom Sawyer』が出版されたのは、ふたりの作家の(といってもウェブスターの側での)ささやかな奇縁として語られることがあります。『トム・ソーヤーの冒険』の出版社は、ハートフォードの Elisha Bliss, Jr. というひとの the American Publishing Company で、この出版社は1869年の出世作『赤毛布外遊記 The Innocents Abroad』からマーク・トウェインの作品を出版し、マーク・トウェイン自身も1868年からハートフォードに住んでブリス Jr. と交流していました。オリヴィア・ラングドンと結婚して2年くらいはニューヨーク州バッファローに住みますが、1874年にまたハートフォードに戻ってきて、ビリヤード・ルームのある豪邸を建てました。

  その後、A Tramp Abroad (1880) の出版は American Publishing Company ですが、The Prince and the Pauper (1882)、The Stolen White Elephant (1882)〔短篇小説ですが単行本として〕、Life on the Mississippi (1883) はボストンの James R. Osgood and Company から出版されました。

  そして1884年5月1日、もともと出版や印刷に興味をもっていたマーク・トウェイン自身が出資して出版社をつくります。マーク・トウェインは、1875年に姉パメラ (Pamela Ann Clemens Moffett, 1827-1904) の娘のアニー・モフェット (Annie E. Moffett, 1852-1950) と結婚して義理の甥となっていたチャールズ・ルーサー・ウェブスター (Charles Luther Webster, 1851-91) に出版社の仕事を任せ、Charles L. Webster and Company という名前の出版社がニューヨークで立ち上げられます。結婚翌年の7月に生まれていた幼いジーンを含むウェブスター一家はフレドニアからニューヨークに居を移しています。この出版社が最初に出した本が『ハックルベリー・フィンの冒険』(アメリカ版、1885年2月)でした。同じ1885年には南北戦争時の将軍U・S・グラントの自伝も出版し、数十万部を売るベストセラーとなり、一躍有名な出版社となります。

  しかし、その後、企画の失敗(法王の手記とかヘンリー・ウォード・ビーチャーの手記とか、11巻本のアメリカ文学アンソロジー――これ、見てみたいのですが・・・・・・――とか)や、ウェブスターの体調不良もあって、1888年、マーク・トウェインは Fred[erick] J. Hall というひとに首をすげかえます(でも出版社の名前は変えず)。チャールズ・ウェブスターは仕事の行き詰まりと精神的な疾患で苦しみ、薬の多量の服用により1891年4月28日、フレドニアの自宅で亡くなります(このときジーン・ウェブスターは14歳)。

  その後、出版社の経営は不振で、大金を投じたペイジ植字機の失敗もあり、マーク・トウェイン自身が破産してしまい、1894年にチャールズ・ウェブスター・アンド・カンパニー社は10年の短命でなくなります。マーク・トウェインは、ハーパー社とか、あるいはまたアメリカン・パブリッシング・カンパニーとかから作品を出版するようになりました。

☆ ☆ ☆

で、『ハックルベリー・フィンの冒険』のことを書こうと思っていたのですが、だいぶ前置きが長くなったので(でもつい、ジーン・ウェブスターのことを考えていたら書かざるを得なかったのです)、細部はつぎにまわして、でも少しだけ書いておきたいと思います。

  ウィキペディア(英語)の "Adventures of Huckleberry Finn" にも載っているのは、つぎのおもて表紙です。――

200px-Huckleberrycover.jpg

  これの背表紙の下のほうには "CHARLES L. WEBSTER & CO." と金字でしるされています。――

HuckleberryFinn-1st-bookcover.jpg
Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn (New York: Charles L. Webster, 1885)

  さて、ネットサーフィンしていたら、デラウェア大学図書館の特別収蔵品のページに、青色の表紙の初版が載っていました。――

HuckleberryFinn-1stEd(1884).jpg
image via "FOUR DECADES OF LIBRARY SUPPORT: Literature" University of Delaware Library, Special Collections Department <http://www.lib.udel.edu/ud/spec/exhibits/udla/lit.htm>

   そして、説明は以下のようです。――

Mark Twain, 1835-1910.
Adventures of Huckleberry Finn: (Tom Sawyer's Comrade).... London: Chatto & Windus, 1884.

Perhaps the best-known work of American literature, Huckleberry Finn has also been a source of great controversy over the years. The first edition of Twain's novel remains one of the great high spots of American book collecting.

  『ハックルベリー・フィンの冒険』についての有名な話として、1884年に、誤って定冠詞 "The" を付してイギリス版を出版(上にあるようにロンドンのチャトー・アンド・ウィンダス社)、翌1895年に "The" をとってアメリカ版を出版ということがあります。アメリカ版の出版が遅れたのについては、E. W. Kemble の挿絵の1枚にワイセツなイタズラが加えられて、それを修正するのに時間がかかった、という事情があったとされていますが、ともかく、正しいタイトルは定冠詞のないもので、それは、リクツとしては、『トム・ソーヤーの冒険』のほうは冒険が完結しているが、『ハック』のほうは冒険が完結せず、まだこれからも続く、そのことと定冠詞の有無はかかわっているのだ、ということです(このリクツを最初に言った批評家はフィリップ・ヤングでした)。

  いまはインターネットの時代で、わたしのような貧乏人にも初版テクストが電子的に入手可能です。で、Internet Archive を漁ると、英米両方の初版テクストが見つかりました(あー、しあわせ♪)。

TheAdventuresofHuckleberryFinn(Chatto&Windus,1884).jpg
Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn (London: Chatto & Windus, 1884)  xvi+438, 32 (publisher's  catalogue) pp. <http://www.archive.org/stream/adventureshuckl00unkngoog#page/n9/mode/2up2up>

AdventuresofHuckleberryFinn(US1st)title.jpg
Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn (New York: Charles L. Webster, 1885) 366pp. <http://www.archive.org/stream/adventureshuckle00twaiiala#page/n9/mode/2up>

  イギリス版のほうの電子テクスト (Google ブックス) は、残念ながらケンブルの挿絵を削除して見られないようにしています。版権の関係なのでしょうか。そして表紙もカヴァーしていません。

  両方をパラパラめくっていると、まず本文第一ページの最初の挿絵にタイトルが含まれているのに気づきます。先にアメリカ版――

AdventuresofHuckleberryFinn(American1st)17.jpg
Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn (New York: Charles L. Webster, 1885), p. 17 


  そしてイギリス版――
[The]AdventuresofHuckleberryFinn(Chatto,1884)xvi,1.jpg
Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn (London: Chatto and Windus, 1884), pp. xvi, 1

  イギリス版は、目次やイラストのリストの部分をローマ数字でページを振ってあり、本文のはじまりが第1ページです。アメリカ版は本文の始まりは第17ページ。両者はページ番号のみならず組版が異なっていることがわかります。それにしても、ケンブルの挿絵に組み込まれていた冒頭第一語の "You" まで切り取っているのはケシカランと思います("don't" で始まっている)。ムカデ図をはじめ著者のイラストを排除したグーテンベルクの『あしながおじさん』よりもひどいです。

  しかし、げげげっ。アメリカ版を見ると、"The Adventures of Huckleberry Finn" と定冠詞が入っているではありませんか(イギリス版の電子化ファイルが、たまたま "The" を切り取っているのはご愛嬌としても)。さらに、ページを繰ると、偶数ページの上部にタイトルが印刷されつづけています。

TheAdventuresofHuckleberryFinn(Chatto&Windus,1884)p2.jpg
Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn (London: Chatto and Windus, 1884), p. 2

     イギリス版に "The" が一貫するのはうなずけるとしても、アメリカ版――

AdventuresofHuckleberryFinn(US1st)18-19.jpg
Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn (New York: Charles L. Webster, 1885), pp. 18-19

  左側18ページの上のマージンです。 THE ADVENTURES OF HUCKLEBERRY FINN. と印刷されています。これは、最後のページまで同じです。

AdventuresofHuckleberryFinn,US1st,p.366.jpg
Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn (New York: Charles L. Webster, 1885), p. 366

  そうすると、イギリス版とアメリカ版のタイトルの違いといわれるものは、まさにタイトルページだけなのかしら。

  Google Books では見られないイギリス版の表紙を捜し求めました。それは、上のデラウェア大学図書館所蔵の青い表紙の本の背表紙の下の字が、どうも Chatto & Windus と書いてあるようには見えなかったということもあります。――

3265-01.jpg
Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn (London: Chatto & Windus, 1884)

  赤でした。そして表紙のデザインは異なっていて、ちゃんと(w) "The" が入っていました。

    ということで、少しだけ謎をはらませながらつづく~♪

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"Mark Twain, Publisher" ["Webster Company Publishing History"] <http://www.twainquotes.com/websterco.html> 〔www.twainquotes.com 内。チャールズ・L・ウェブスター社が1885年から1894年の10年間に出版した本のリスト〕

"A Rare Interview with Charles Webster" ["Charles Webster - short biography and interview"] <http://www.twainquotes.com/interviews/WebsterInterview.html> 〔同上〕

飯塚英一 「マーク・トウェイン最後の旅行記『赤道に沿って』の出版をめぐる経緯」 宇都宮大学『外国文学』 54 (March 2005): 1-13.  pdf. 宇都宮大学学術情報レポジトリ <http://uuair.lib.utsunomiya-u.ac.jp/dspace/bitstream/10241/357/1/KJ00004174273.pdf> 〔出版や経営や出資や投機についていろいろと書かれています。チャールズ・ウェブスターについては「厄介者」というふうに、まあマーク・トウェインの側に気持ちを投影して、書かれています。〕


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morichanの父

SORI さま、わかりにくい記事を読んでいただき、そのうえnice までいただき、ありがとうございます。
by morichanの父 (2010-02-23 20:08) 

デイ

年代のミスがありますので、訂正させていただきます。
アメリカ版(定冠詞が削除された版)が出版された年は、1885年ですよ。
by デイ (2017-01-10 22:09) 

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