So-net無料ブログ作成

オフィーリアと柳 Ophelia and the Willow Tree [Marginalia 余白に]

ジュディーが柳の木のマタから手紙を書くのは、2年生の8月10日だけれど、その5ヶ月前の3月5日付の手紙(「3月の風が吹いています」で始まる手紙であり、「いいじゃないの幸せならば」を引用する手紙です)では、古典といえばいま『ハムレット』を読んでいます、というノリで、夜毎に王妃オフィーリアとして夢見る孤児院の改革運動について言及していました(国政はダンナのハムレットに任せて、じぶんは慈善運動に関わっていますみたいな、そして、結辞は "Yours most graciously, /Ophelia /Queen of Denmark" なのでした)。そして春休みにニューヨークに出たとき(マーサ・ワシントンホテルに泊まって)にも『ハムレット』の舞台を観劇して感激しています。

  ですから、そのわずか数ページ後、数ヶ月後のロック・ウィローで柳の木が出てきたときに、オフィーリアと柳のイメジが思い浮かばざるを得ないような読者を作者が想定していなかったといえなくはなかろうと思わずにいられないと考えられなくはありませんと書かざるを得ないのです。

  気が狂ったと思われるオフィーリア(ちなみにこの「狂う女」というのはもしかするとひそかに『あしながおじさん』にひそんでいるモティーフかもしれません・・・・・・がいいかげんなことは言えないので、いいかげんな憶測のままにしておきますが)は、川辺に生えた柳の木から川に落ちます。

  『ハムレット』4幕7場で 王妃 Queen Gertrude が語るオフィーリア水死の状況――

Queen Gertrude:
There is a willow grows aslant a brook,
That shows his hoar leaves in the glassy stream.
There with fantastic garlands did she come
Of crowflowers, nettles, daisies, and long purples,
That liberal shepherds give a grosser name,
But out cold maids do dead men's fingers call them.
There on the pendant boughs her corronet weeds
Clamb'ring to hang, an envious silver broke,
When down her weedy trophies and herself
Fell in the weeping brook.  Her clothes spread wide
And, mermaid-like, awhile they bore her up;
Which time she chaunted snatches of old tunes,
As one incapable of her own distress,
Or like a creature native and indued
Unto that element; but long it could not be
Till that her garments, heavy with their drink,
Pull'd the poor wretch from her melodious lay
To muddy death.

一本の柳が小川にはすかいに伸びて生え
川は柳の白い葉を鏡のような流れに映しています
そこで、オフィーリアはきれいな花環をいくつも上手につくりました
キンポウゲにイラクサ、ヒナギク、それから、ムラサキラン、
これ、慎みのない羊飼いたちはもっと下品な名をつけているけれど
さめた娘たちは「死人の指」と呼んでいます
その花冠を柳の垂れさがった枝にかけようと
よじのぼったとき、枝は意地悪く折れて、
花冠を抱いたまま、あの子は
すすり泣く小川に落ちてしまいました。裳裾がひろがり、
しばらくはマーメイドのように川面を浮かびただよいに浮かんで
そのあいだ切れ切れに古い歌を口ずさんでいました
自分の不幸を嘆くことを知らぬひとのように
でなければ水に生まれ、水に
すむもののように。しかし、それも長くは続かず
服が、水を飲んで重たくなり、
かわいそうな歌うあの子を泥の死へと
引き込んでしまいました。

    自分で訳し出したら、やたら時間がかかってしまった。

   このオフィーリアの死を描いた絵画は、ラファエロ前派のジョン・エヴァレット・ミレー (John Everett Millais, 1829-96) の有名な油絵 (1852) を筆頭に、John William Waterhouse (1849-1917) [1889, 1894]、Arthur Hughes [1865]、Dominico Tojetti (1817-92) [1880]、W. G. Simmonds、Harold Copping あるいはArthur Prince Spear [1926] や Odilon Redon やArthur Rackham など、いろいろあって、西洋で名のある画家に描かれたもののたいがいは次のサイトで見ることができるように思われます。――

John Moore, "Ophelia by John Everett Millais: A Critique of a Shakespeare-Related Painting"

Alan R. Young, "Visual Representations of Hamlet, 1709-1900"

  前者はミレーの絵について、詳しい資料となっていますが、下におまけで、オフィーリアのさまざまな絵画の画像と説明があります。後者は劇全体にわたる長いテキストですが、だいぶ下のほうの "Ophelia's madness" と "Ophelia's Death" の見出しのあたりを参照。

  えーと、このふたつのサイトにない、ラッカムと、あと人魚風のもの2種と日本人のをひとつだけ補遺的に掲げておきます。

  あ、いやその前に日本人のブログで22枚オフィーリアが掲載されているもの――

オフィーリアLife Style Concierge

さらにその楓さんに導かれて―― 

オフィーリア 〔『ヴァーチャル絵画館』 in 『タイムライン』

もうひとつお気に入りに入っていました。ミレーが増幅させたオフィーリアのイメジ――

オレンジのR+//シェークスピアの『ハムレット』xミレイの『オフィーリア』xドラロージュの『若き殉教者の娘』

〔もうひとつ日本人のブログを追加です。☆ジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』:カイエ 2005.11.15・・・・・・メモっておくと、個人的には鏑木清方の『狂乱のオフェリア』という題の挿絵が気になっているのですが

  ううむ。ハゲシク広がり収斂しないですね。そのうちヒマができたら、画像だけのページをつくりますヮ。

WS000180.JPG
『草枕絵巻』の1枚 山本麻佐之〔丘人〕『水の上のオフェリア〔美しき屍〕』 (1926)――奈良国立博物館の「写真検索システム」 で松岡映丘一門による3巻本『草枕絵巻』の写真が見られます・・・・・・オフィーリアは巻二に載ってます。

  あ゛、これ柳がないですね。

  やっぱりアクマデ柳がらみで何枚か貼っておきます。そうだ、ラッカムをまず。――

WS000181.JPG
Arthur Rackham, illust., Charles Lamb, Tales from Shakespeare (1899; 1909)

 

RichardRedgrave,OpheliaWeavingHerGarlands(1842).jpg
Richard Redgrave, Ophelia Weaving Her Garlands (1842)

   太い柳の木に腰をかけた状態で花冠を織るオフィーリアという構図の絵があります。しかし太いなあ。

Ophelia,byJohnWilliamWaterhouse(1849-1917),1894.jpg
John William Waterhouse, Ophelia (1894)

   こちらは幹が細くなっていますが、2枚とも物語イメジ的には、川面に斜めに伸びた柳の木に腰をかけて花冠を編みあげ、それを木の先の枝にかけようとして、幹から太枝へと伝っていったときに枝が折れたと。

Ophelia,byJulesJosephLefebvre(1850).jpg
Jules Joseph Lefebvre, Ophelia (1850)

    違う構図です。柳の木には、あくまで花冠をかけるべく登っていったというイメジかしら。ミレーの絵もたぶんそうかもしれません。――

JohnEverettMillais,Ophelia(1852).jpg
John Everett Millais (1852)

   柳の枝が折れたさまを絵にしているフランスの画家もいます。――

AlexandreCabanel_Ophelia(1883).jpg
Alexandre Cabanel, Ophélie (1883)

    ところで、個人的にとても気になったのは、Arthur Hughes の2枚目のオフィーリアです。ミレーと同じ1852年に発表された1枚目 ("First Version") の半円状の絵は、上のJohn Moore, "Ophelia by John Everett Millais: A Critique of a Shakespeare-Related Painting" で詳しい説明があり、水面には黄色い汚れ "yellow slime" があり、コウモリ bat が飛び、不気味な様子を高めている、みたいに書かれています。コウモリがなかなか見つからなかったのですが、左下の柳の木の下にいるみたい。で、同じ Ophelia で "Second Version" と呼ばれる1864年か1865年の作品には別のものが描かれています――

ArthurHughes-ophelia2.jpg
image via Ogród Jane Austen / Galeria "Salonu Jane Austen"

   オフィーリアの背中を飛んでいる青い鳥です。

    あるいは、EssentialArt の画像がわかりやすいかもしれません―― <http://www.essentialart.com/acatalog/Arthur_Hughes_Ophelia_1865.html>

    そーなんです。

  『あしながおじさん』に出てくる devil down-head こと nuthatch です。――いちおう8月3日の「デビルダウンヘッド (2) Devil Down-Head」参照。アメリカの東海岸の方言で "devil down-head" と呼ばれるのは胸の色で区分した名で "white-breasted nuthatch" と"red-breasted nuthatch" で、羽はグレーぽいと思っていたのですけれど、Wikipedia を見ると、nuthatch は青い種類もいるみたい。とくにアメリカの red-breasted nuthatch は羽はblue gray なんですね。

Arthur_Hughes_Ophelia_1865(bird).jpg

    いえ、断定はできないです。でもツバメじゃないと思うんです。もちろんコウモリでも。

Red-breasted Nuthatch

 

  

 

 

 

 

 


image via "Red-breasted Nuthatch" 

 ///////////////////////////////////////

Moore, "Ophelia by John Everett Millais: A Critique of a Shakespeare-Related Painting" <http://www.shakessays.info/Essay%20on%20a%20shakespeare%20related%20piece%20of%20work%20-%20Ophelia%20by%20Millais.htm> [Shekespeare Studies, August 1999]

Alan R. Young, "Visual Representations of Hamlet, 1709-1900" <http://www.leoyan.com/global-language.com/ENFOLDED/YOUNG/> [See "Ophelia's madness," "Ophelia's Death"]

"Tate | Work In Focus: Millais's Ophelia" <http://www.tate.org.uk/ophelia/default.htm> [Tate Gallery HP]

"181.  The Ophelia of Suburbia - Hogsmill River, Ewell" <http://roadsofstone.com/2008/04/30/181-the-ophelia-of-suburbia-hogsmill-river-ewell//> 〔ミレーが1851年に写生した場所の探訪記 blog roads of stone, April 30, 2008〕

"Ophelia" <http://www.english.emory.edu/classes/Shakespeare_Illustrated/Ophelia.html> 〔たぶん大学の先生のページ、画家と画像の説明リンク〕

加藤明裕 「融合文化論 On Combination and Harmony of Cultures」 『融合文化研究』2 (2003): 62-70.  <http://atlantic.gssc.nihon-u.ac.jp/~ISHCC/bulletin/02/207.pdf> 〔山本丘人とミレーのオフィーリアの比較文化論的比較 pdf.〕

"Love ~ Tragedy --- The Pre-Raphaelites Muse Ophelia" <http://blog.creaders.net/ebola/user_blog_diary.php?did=16106> 〔『砂之痕』 中国語のページ〕

"The RSPB: Nuthatch" <http://www.rspb.org.uk/wildlife/birdguide/name/n/nuthatch/index.asp> 〔イギリスの nuthatch〕

8月25日追記  いったい、たとえば夏目漱石も書くように、ミレー(たち)のオフィーリアは川面を流れているんだろうか。流れていないような気がしてきました。流れていく様子を描いたら、元の柳の木から離れちゃうし・・・・・・(絵的にはw)。宿題にします。


nice!(2)  コメント(7)  トラックバック(1) 
共通テーマ:学問

nice! 2

コメント 7

lapis

TBありがとうございました。
『狂乱のオフェリア』ではありませんが、鏑木清方がミレイの『オフィーリア』を参考にしたと言われる『金色夜叉』の挿絵は以下のサイトで見られます。
http://www.ne.jp/asahi/dimestore/fujimidoo/page052.html
ドラロージュの『若き殉教者の娘』は、ルーブル美術館蔵版の他に、エルミタージュ美術館蔵版もあります。
http://cahier-de-lart.blog.so-net.ne.jp/2009-08-03
by lapis (2009-08-25 23:35) 

morichanの父

lapis さま
ご丁寧にありがとうございます。勉強させていただきます。
by morichanの父 (2009-08-29 13:07) 

楓

こんにちは。たいへん良い作品をお選びになられたのですね。見ごたえがあって参考になりました。

トラックバックありがとうございます。

わたしもSO-NETにブログがあるのですが、ログインのための全てを忘れてしまい放置状態です。思い出しましたら「nice!」をポチンしたいです。

Richard Redgraveですが、物語を扱ったテーマが多く、シンデレラもあります。どちらかといえばテーマより風俗画のような作品にみえる不思議な描きかたです。
by (2009-09-11 11:02) 

morichanの父

楓さま
どうもありがとうございます。レッドグレイヴは多芸な人だったみたいですね。名前、つづり間違えていました(汗)。直させていただきます。

by morichanの父 (2009-09-11 11:26) 

NO NAME

Pretty nice post. I just stumbled upon your blog and wanted to say that I have really enjoyed browsing your blog posts. In any case I’ll be subscribing to your feed and I hope you write again soon!
by NO NAME (2010-05-09 18:41) 

neverneverland

 はじめまして.Hamlet の新たな飜譯を,『ハムレットのこんな讀み方 + マクベス(下書き)』 と題して公開しをる neverneverland と申します.

 さて,ガートルードの,オフィーリアの最期についての臺詞を,些と淚しながら,こんなふうに譯したのですが,いかゞでせうか.

女王. 小川の際(きは)に,川面(も)へと伸びた柳の大枝が,
   薄鼠(うすねずみ)の葉裏の色を流れに映して.
   そこへあの子が,何に見立てたか,
   幾つもの輪飾りにした,鴉(からす)の足首草(ぐさ)や,
   刺草(いらくさ)や,鄙(ひな)びた小菊や,
   あの,羊飼ひが明け透けに,いけない名を附け,
   でも,乙女らは死人(しびと)の指と呼ぶ,
   紫の花を手に.その野の草の輪飾を,
   垂れた大枝に懸けてやらうと,攀(よ)ぢ登つた時,
   これを妬(ねた)んだか,小枝が折れて,
   草の輪飾り諸共,あの子まで,
   雨に嵩(かさ)増す小川へと.
   服は水面(みなも)に開き,人魚のやうに暫くは,
   あの子を支へて.その間(あひだ)にも,
   子供の頃の言祝(ことほ)ぎの歌を口ずさみ,
   身の危ふさも知らぬ氣に,水の中に,
   生れ親しむ生き物のやうに.が,それも束の間,
   衣(ころも)は水に重みを増して,つひに哀れや,
   あの子から,歌を奪つて,死の泥底へと.

Quee. There is a Willow growes ascaunt the Brooke
 That showes his horry leaues in the glassy streame,
 Therewith fantastique garlands did she make
 Of Crowflowers, Nettles, Daises, and long Purples
 That liberall Shepheards giue a grosser name,
 But our cull-cold maydes doe dead mens fingers call them.
 There on the pendant boughes her cronet weedes
 Clambring to hang, an enuious sliuer broke,
 When downe her weedy trophies and her selfe
 Fell in the weeping Brooke, her clothes spred wide,
 And Marmaide like awhile they bore her vp,
 Which time she chaunted snatches of old laudes,
 As one incapable of her owne distresse,
 Or like a creature natiue and indewed
 Vnto that elament, but long it could not be
 Till that her garments heauy with theyr drinke,
 Puld the poore wretch from her melodious lay
 To muddy death.       (from Q2)


 オフィーリアの溺死の憐れさも然る事ながら,
クローディアスとおのれの『婚儀』から派生した,
オフィーリアの死を語る,ガートルードの遣り切れなさも,
そこはかとなく思はれて,思はず淚も浮かばうかと言ふ,
印象深い『アリア』となつてゐる,とも言へませうか.

 『柳』といふと日本では,細い枝を思ひ浮かべますが,
あちらでは,可成りの『大枝』とのことで,各種,
繪畫のとほりのやうですね.

 その『大枝』を,輪飾りで飾つてやらうとしたところ,

  an enuious sliuer broke

 つまり『小枝』が,それを『妬んだ』やうに折れたといふ,
そんな表現が,憫れであるとゝもに,印象深い.

 さうとでも考へなければならぬほどの,
ガートルードの口惜しさが,まざまざと傳はるやうな,
絶妙な表現と言へませう.

 ところで,花の輪飾りですが,

  fantastique garlands

とは,『意味不詳な花環』の意で,本來何らかの,
意味ある見立てゞ作られるべき,花環の意味が,
不明とのこと.Shakespeare も繰り返し,
her cronet weedes または,weedy trophies と,
ガートルードに述べさせてゐます.

 つまり,花環の草花は,野の草なのです.
そして,それが,さらにも『憫れ』な,
繪柄を思ひ浮かべさせます.

 Crowflowers は,crow の名の通り,
烏の足首に似た,小さな花を附ける.
Nettles は,刺草(いらくさ)で,Daisesも,
有り觸れた野の草で,long Purples も,
ガートルードの説明の通り,本來『花環』には,
用ゐられないものと言へる.つまり,
『立派』または,『大きな』などの譯語では,
不適切であると言へませう.

 この點では,John Everett Millais の繪は,
川面に浮かぶオフィーリアの傍らに,
如何にも貧弱な,野の草を配し,絶妙と言へる.
また,服裝も重厚で,これなら暫くは,
流れに軀が浮かんでゐたとて,不思議ではない.

 いつたい何の,輕率な,思ひ附きからか,
裸に近い,女を只〻見たいと言ふ,好みに負けたか,
妙な『自然主義的』とでも言ふ,寢間着姿では,
到底,小唄を口ずさむ,遑(いとま)も無しに,
水に吞まれて,沈みませう.

 …と,まあ,そんなこんなを考へ倂せて,
上記の飜譯を拵へたのですが,如何でせうか.

 なほ,the weeping Brooke は,weep の意を,
捨て難いのですが,慣用句として扱ひました.
上手い譯語を思ひ附いたら,變更致します.

 …といつた Hamlet の飜譯を,以下のサイトで,
公開してをります.

 http://from-neverneverland.blogspot.com

 ガートルードの臺詞は,こちらに….

 http://from-neverneverland.blogspot.jp/2011/10/scene-18.html

 お時間など,よろしくば,ぜひ『御來場』をお待ち致します.











 








by neverneverland (2012-12-17 16:10) 

rhsy

たまたま拝見しました。オフィリア水死の場面の綺麗な絵の幾つか、どうもありがとうございます。実はこの場で申し上げるのが良いかどうかわかりませんが、ここのガートルードと、それに続くラエルテスのセリフは、英語原文を読んでいますと大変性的な裏の意味があるように思われます。いかがでしょうか。。。
by rhsy (2016-10-21 16:43) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

メッセージを送る

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。