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『蚊とんぼスミス』――東健而の『あしながおじさん』 (3) Azuma Kenji's Translation of Daddy-Long-Legs」 [Daddy-Long-Legs]

昨日の「『蚊とんぼスミス』――東健而の『あしながおじさん』 (2) Azuma Kenji's Translation of Daddy-Long-Legs」の最後に「つづく」と書いたものの、国会図書館へ行ってもどうやら見つからないだろう本を、どうやって突き止めるのか、という失神しそうなほどの問題を抱えてるというのが第一、そして、東健而の翻訳をとりたててどうこう分析しようというつもりはなかったのが第二、で、続きませんがな。

   〔追記 この記事、 蚊とんぼスミス  にタイトルをあらため、蚊とんぼについての分類学的話と、スミスについての命名学的話に分裂していこうかと思ったのですが、結局東健而がらみでとどまってしまったので、やっぱりその3となりました。〕

  それでもいちおう流れのままに書きとめておきます。ひとつは遠藤寿子が1961年8月に記して、岩波少年少女文学全集12『あしながおじさん/続あしながおじさん』の巻末に載っている「訳者あとがき」(pp. 393-397) です。

  このあとがきで遠藤は、戦前の翻訳の経緯を、私的なことも含めてざっくばらんに回想しています。――

『あしながおじさん』が岩波文庫本となって世におくられたのは、二十八年前のことでした。 "Daddy-Long-Legs" という奇抜な題に心をひかれて、書店でこの本を開いて見たわたくしは書簡体であるのと愉快な絵があるのとで興味をひかれ、それが、この本を知るきっかけになりました。当時わたくしは、ウェブスターという作者の存在も知っていませんでした。その本には発行所の名前があるだけで、前がきもなければ紹介らしいものも書いてないのです。わたくしは、英文の手紙を書く助けになるだろうぐらいに思って読みはじめました。読んでゆくうちに、つい、つりこまれてしまいました。ジルーシャの天真らんまんな、それでいて、きかぬ気のあるところが、とても気にいったのでした。ちょうどその頃、わたくしは、イギリスの長い小説を訳したあとで〔『ジェーン・エア』のことだと思われます――引用者〕、軽いものを訳してみたいと思っていた矢先にこの作品を知りましたので、これを翻訳してみようと思いたちました。訳しはじめて、昭和七年の一月か二月ころと思いますが、高田とし子さんとおっしゃる方が、NHKの午前の放送で、 "Daddy-Long-Legs" を紹介なさって、二回か三回原文の朗読と解釈をなさいました。偶然のことながら、わたくしは自分の翻訳に、はげみを感じてうれしかったことを今だに忘れません。しかし、この作品の軽妙な手紙の文章を日本語にするということは、けっしてやさしい仕事ではありません。しかも、お嬢さん育ちの娘の書く手紙と孤児院育ちの娘の書く手紙とでは、日本語までしておのずから、そこにちがった調子があるわけで、わたくしは、それに、ずいぶん苦心をいたしました。翻訳ができあがって、岩波書店から出版していただくことになったとき、原題をどういう日本語の題にしたらよいかということになりました。(原題 "Daddy-Long-Legs" というのは、アメリカではたいへん足の長いクモのこと。)結局、当時編集部の布川角左衛門さんが、いろいろお考えくださった末に『あしながおじさん』という題にきまったのでした。もとの東京女子高等師範学校教授岡田美津子先生〔岡田美津のことだと思います――引用者〕がこの原書の複製本に注解をおつけになったのがあって、それがどんなに参考になったかしれません。また、映画がトーキーになってまもないそのころ、かれんな娘役で売りだしたジャネット・ゲイナー主演のこの作品の映画が日本語題「陽炎の春」で日本でも封切りされましたが、これは近年上映されたもの〔フレッド・アステアとレズリー・キャロン主演のミュージカル映画――引用者〕とはちがって、原作を忠実に画面に生かした場面が多く、たいそう、これも参考になりました。 (394-5)

    遠藤寿子(壽子)による『あしながおぢさん』の岩波文庫訳初版は1933(昭和8)年8月5日発行となっています。昭和7年はじめの高田とし子のNHK放送や、その頃あったらしい岡田美津(子)の注解書については、WEBで調べても不明ですが、とりあえず、日本においてまったく知られていない本ではなかったのは明らかです(個人的な本との邂逅が書かれているので、印象的な一節となっているのですが)。そして、もちろん1929(昭和8)年に出た改造社版の東健而の『世界滑稽名作集』は品切れではなかったはずです(1919(大正8)年の玄文社(?) 刊の単行本『蚊とんぼスミス』が絶版になっていたとしても、です)。改造社の世界大衆文学全集というのは、たとえば「『蚊とんぼスミス』――東健而の『あしながおじさん』 (1) Azuma Kenji's Translation of Daddy-Long-Legs」で注記した「改造社世界大衆文学全集目次細目」<http://okugim.hp.infoseek.co.jp/k-s-t-b-zenshuu-2.htm> が詳しく述べているように、当初36巻の予定だったのが全80巻となり、1928(昭和3)年2月15日発行の『家なき児』(第2巻)初回配本から、その後の2冊同時配本・第三次までの増刊を経て、1931(昭和6)年9月12日発行の『赤狼城秘譚 失踪婦人』(第79巻)・『獅子狩りの人』(第71巻)が最終回配本だったのではないかと思われます。もっとも、この手の全集は予約配本で、バラで書店には並んでいなかった・・・・・・のでしょうか(不明)。

  それでも、改造社との関係でいうと、遠藤寿子は、のちに岩波文庫に入ることになる Jane Eyre の訳を、実は1930(昭和5)年に改造社から出しているわけです。『ヂェイン・エア』上巻480ページ、『ヂェイン・エア』下巻450ページ。

  それも、世界大衆文学全集の中でです。第61巻『ヂエイン・エア(上巻)』、第62巻『ヂエイン・エア(下巻)』。ともに第33回配本で、1930(昭和5)年9月20日発行です。第二次増刊(55-68巻)の2冊でした。

  『蚊とんぼスミス』の訳が入った東健而編著『世界滑稽名作集』は、当初の36巻中の第34巻で、第16回配本でした(1929年=昭和4年6月3日刊行)。

  ま、気がつかない、ということはいろいろなところで起こることですが。

  まだつづくかもw  

 

   ところで・・・・・・よく見ると、「スミス」があとから付け足したように小さな活字に見えるのですが、気のせいでしょうか――

SekaiKokkeiMeisakushu,transAzumaKeji(Kaizosha,1929)8.jpg
東健而編訳『世界滑稽名作集』 (1929)

 

  


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ワフー

ミュージカル映画の邦題が「蚊とんぼ」だったら?

 二十世紀フォックス社のミュージカル映画「足ながおじさん」(1955年)は、時代を現代に移してあり、篤志家が、才能のある孤児を大学にやるという骨組みは踏まえているものの、ジョン・グリーア孤児院もロック・ウィローの田園生活も現れず、原作の雰囲気は皆無です。しかし、よくできていて楽しめる映画であり、小生の好きな作品です。

 実は思うところあって、最近、図書館でこの映画のDVDを借り、ジャーヴィス(フレッド・アステア)とジュリー(原作のジュディ、レスリー・キャロン)がニューヨークのホテルのテラスで朝食を取る場面を確かめました。ちょっと長くなりますが状況を説明すると、ジャーヴィスは孤児の娘を大学に入れたことなどケロリと忘れて、事業や政府から委嘱された仕事に忙しく、ジュリーがせっせと書く手紙はジャーヴィスの秘書の手元に溜まるばかりです。

 見かねた秘書にせっつかれて、ジャーヴィスは大学祭を見学に行き、偶然を装ってジュリーと知り合います。もちろん、自分が「足ながおじさん」だなどとは明かしません。ジャーヴィスはジュリーに惹かれ、後日、彼女をニューヨークに招待します。ナイトクラブを梯子するなどして楽しんだ後、彼は彼女を高級ホテルに送り届けます。

 ジャーヴィスは翌朝もホテルにジュリーを訪ね、前記の、テラスで朝食の場面になるのですが、たまたま隣の客室のテラスでも、一時帰国した駐仏アメリカ大使が朝食を取っています。彼はジャーヴィスの友人で、フランスの孤児院にいたジュリーをアメリカに連れて来るのに便宜も図っており、このホテルは彼の定宿だったのです。

 大使は、隣のテラスの男女の会話が耳に入ってくるのを微笑しながら聞いていますが、どうもそれがジャーヴィスとジュリーらしいと気付きます。憤慨した大使は隣室に電話してジャーヴィスを呼び出し、「恩人の立場を笠に着て、若い娘をホテルに連れ込むとは恥知らずな!」と難詰します。

 電話が隣室からだと知ったジャーヴィスは、直ぐにその部屋に行って、大使に、「私は、今朝、出直して来たのだ。第一、彼女は僕が恩人の『足ながおじさん』だなんて知らないんだ」と釈明します。

 画面では、この部分の遣り取りは次のようです。

ジャーヴィス 「She doesn't know anything about that.
She doesn't know that I'm her Daddy...」
大使     「Daddy what? Daddy Sugar?」

 DVDの日本語吹き替えは、こうなっています。

ジャーヴィス 「あの娘はそんなことは知らんよ。
        足ながおじさんが誰か。」
大使     「何だ。足長って?」

 日本語字幕はこのようです。

ジャーヴィス 「彼女は知らない。僕が・・・」
大使     「若い女が好みと?」

 小生は字幕の訳の方が適切だろうと思います。

 しかし、劇場公開の時の字幕が凄かったです。見たのは半世紀以上前だからうろ覚えですが、こんな風でした。

ジャーヴィス 「彼女は何も知らずに、恩人を足なが・・・」
大使     「長いのは鼻の下だろう!」

 意味を伝えるとともに、元の台詞の尻取り的な言葉遣いまで盛り込んだ見事な処理ですね。これでは、後から訳し直そうとする人は堪らないでしょう。字幕担当、清水俊二、とあったと思います。

 考えてみると、ここには大いに興味ある問題が潜んでいます。もし、この映画の邦題が、東健而氏に倣って「蚊とんぼ」だったら、この部分はどうなるでしょう。小生の試訳は、

ジャーヴィス 「彼女は何も知らずに、恩人を蚊とんぼ・・・」
大使     「蚊とんぼがどうした?極楽とんぼか!」

 いかがでしょう。やっぱりダメですかね。どうもお粗末様!

by ワフー (2011-02-19 20:54) 

ワフー

 2月の小生の試訳の、大使の台詞の最初にうっかり「蚊」と書きましたが、これは不要で、次のように訂正します。

 ジャーヴィス 「彼女は何も知らずに、恩人を蚊とんぼ・・・」
 大使     「とんぼがどうした?極楽とんぼか?」
                                             以上


by ワフー (2011-03-27 21:28) 

morichanの父

ワフーさま、いろいろとありがとうございます。またしても応答が遅れてたいへん失礼いたしました。春休みに菊池寛の少女小説を読みました。そのうち書きます。
by morichanの父 (2011-05-07 13:33) 

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