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デビルダウンヘッド (2) Devil Down-Head [Daddy-Long-Legs]

『あしながおじさん』の2年生の8月10日に農場のロックウィローからジュディーが書いた手紙の冒頭、柳の木に登った様子を書いたなかに、幹を猛スピードで上下する "devil down-heads" というのが出てきます。――

I address you from the second crotch in the willow tree by the pool in the pasture.  There's a frog croaking underneath, a locust singing overhead and two little "devil down-heads" darting up and down the trunk

   前の記事で書いたように、この生き物は、既訳のほとんどでリスと取られています(例外は旺文社文庫で、キツツキでした)。それで、著者のジーン・ウェブスターの挿絵を(全面的に)採用していない版は、わざわざリスが2匹駆けるさまを絵にして挿入しています。

  フォア文庫の長新太の絵では、地面に近い部分が描かれておらず、よってカエルも一番目の木のマタも見えませんが、セミが一匹と飛ぶようなリスが二匹、ちゃんと描かれています。

FourBunko.jpg

   金の星社の世界の名作ライブラリー2 の『あしながおじさん』は表紙にはアニメっぽい漫画風の絵が使われていて、裏表紙のほうは、木登りをして文章を練っているらしいジュディーの画像が採用されていて、あるいはNHKだかのアニメなのかしら、と思われますが、本文中の、石原美和子による挿絵は、柳の木の根から描かれていて、二番目の木のマタに腰をおろしたジュディーの左右上方に、見守るようすでリスが書き込まれています。

KinnoHoshi-IshiharaMiwako.jpg

  devil down-head は、英和辞典に見つからないコトバです。そして、オクスフォード英語大辞典(OED) にもウェブスター国際版 (W1, W2, W3) にもない、ようです。冊子媒体で見つかるのは、少なくともモーリちゃんの父が目にするような英語辞典の中では、Frederick Cassidy 編集のアメリカの新しい方言辞典、Dictionary of American Regional English [DARE](4vols. to date: A-C: 1985; D-H: 1991; I-O: 1996; P-Sk: 2002)のみです。この、Harold Wentworth のAmerican Dialect Dictionary [ADE] (1944) 1巻本以来となるアメリカ最初の方言大辞典は、たぶん全5巻で完結するのではないかしらとしか思われませんが、第1巻刊行以来25年が過ぎようとしています(Wikipedia の記事)。ともあれ1991年に出た第2巻に "devil down-head" は載っています。写しが見つからず(汗)、あとから補いますけれど、頭を下にして木を駆け下りる様子からこの名前がついたという説明があり、white-breated nuthatch または red-breasted nuthatch のこと、という記述だったと思います。この語については分布を示す地図とか、あるいは地域的な指示とか、なにもないのでしたが、ともかく、nuthatch のことを言うアメリカの方言である、ということは確かです。

  で、nuthatch というのは、英和辞典的、日本語置き換え的には、《鳥》ゴジュウカラ〈=nutpecker, tree runner〉 です。

  ○devil down-head のことだよ、という記述を含むページふたつ――
"Red-breasted Nuthatch: Sitta canadensis" <http://www.birdnature.com/rednut.html> 〔The Nutty Birdwatcher - Eastern US Birds 内〕
"White-breasted Nuthatch: Sitta carolinensis" <http://www.birdnature.com/whitenut.html> 〔同上〕

  ○写真の豊富なようなページ――
"White-breasted Nuthatch - South Dakota Birds and Birding" <http://sdakotabirds.com/species/white_breasted_nuthatch_info.htm> 〔Terry Sohl さんのページ〕

  昨年Internet Archives で公開されてからたいへん評判を呼んだらしく、22000超ダウンロードされている、Chester A(lbert) Reed (1876-1912) の The Bird Book (1914) には手描きの絵がたくさん載っておるのですが、"devil down-head" のことだよという情報はないけれども、くわしい記述があります。――

WS000044.JPG
<http://www.archive.org/stream/birdbookillustra00reedrich>

  鳥のことには詳しくありませんが、キバシリというおもむきの鳥なのかと思われ。このReed 氏の記述によれば、アメリカ合衆国での分布はロッキー山脈の東側。巣穴の高さはいろいろ。キツツキが去ったあとの木穴を巣として利用するのが通例だということです。もっともときに自ら穴を掘るとも言われているが、クチバシは小さくて、その用には向かないので大変だということです。もっともwoodpecker にも downy woodpecker みたいな小さい(クチバシも小さい)種類もあり、よくわかりませんが、ともかくいわゆるキツツキではないようです。それから日本のゴジュウカラ (五十雀)は Sitta europaea に分類されるもの3種ほどで、これはアメリカ大陸にいるものとは異なるようです。

white-breasted_nuthatch(BirdsofOurYard,atPresidentavenue).jpg
White-breasted Nuthatch image via presidentavenue.com "President Avenue, Lawrenceville, NJ"

   さて、それで、英語問題としては訳者(と注釈者)たちが何を根拠にリスとしたのか興味深いところなわけです。

  想像と推測でしょうか? 直前の手紙の終わりのところ(上の画像の一枚目のほうに載っている)でカエデの木のうろ(穴)にリスが住んでいるという記述があり、連想が働くのは自然かなあ、とも思われます。あとは既訳に右へナラエという感じだったのでしょうか。それでも旺文社文庫の中村佐喜子さんの訳が、意外と早い時期にキツツキとしていたわけで、それを見てあらためて気にかかるというようなことはなかったのでしょうか。いえ、誰がというのでなく。中村さんについては、アメリカ人に訊いたのだろうか、とか、実はご自身で見たことがあって、キツツキだと思ったのだろうか、とかいろんな想像が働き、別種の興味がわくのですが。


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aosima0714

初めまして!
遊びに来ました!
良かったら私のブログに来てくださいね!
これから、ちょこちょこ遊びにきます!よろしくです<m(__)m>
by aosima0714 (2009-08-03 19:01) 

morichanの父

aosima0714 さま
はじめまして。
よろしくお願いします。
by morichanの父 (2009-08-11 15:27) 

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